
(有坂。
涼が出奔したことで、奔走につぐ奔走を強いられている。
無論、お目付としての責任が問われることは間違いない。
が、今は、その行方を突き止めるのが、当面の急務。
「ご守護さま」に何かあっては、
この国の霊的な護りは、一体、誰が果たすのか………!
務める『特別皇宮警備機構』こと<オモテ>と、
『葛葉神道家』の間を何度となく行き来しながら、
その横顔は、一日を待たずして、
焦燥で、げっそりやつれたように見える。
しかし、その内実は、体力的な面もさることながら、
心の中で己を責めているせいでというのが
大きかろう………。
葛葉神道家で、今も、老翁に呼び出され、
そのお目通りを待ちながら。
頭の中にめぐるのは、カフェ再開の日の、
あのシーン………!




(心臓が、キュウッと締め付けられるような痛みが襲う。
全身を痺れさせるような、息苦しさを伴う痛み………!
胃が、ひっくり返されるような、不安と焦り)

(何故、あのとき、大声で叫び、皆を外へ呼び出さなかった。
何故、いまもまだ、あのとき起こったことについて、
自分一人の胸の中にしまい、誰にも言えないまま、
涼の出奔にだけ、大慌てに慌てている?
なぜ…………
あの時、涼があの男を見、あの男が涼を見た。
あの瞬間の交わし合わされた瞳が、胸の中に焼き付いて、
たちの悪い腫瘍のように、全身を疼かせてやまぬのだ………?)


(あの時、体はすぐ動いた。
自分には涼のような特別な力も、
あの男に素手で立ち向かえるような自信も、なにもなかったが、
すぐに腕を伸ばし、
涼をその腕から引き戻した。

だが、それは、何も考えられなくなるくらいに、
焦り、慌てていたからだ。
あの時、イサクは確かに何事か、涼の耳に囁いた。
瞬間、涼が頬に浮かべた微笑みが。


何故か、
自分の奥の何かを、がちんと発火させた………!

あの男の言葉を、一言でも。
それ以上、涼の耳に注がせたくない。
いや、注がせてはならない………!
その時の感情が、今、
心臓を疼かせる痛みとなって、血流の変わりに、
自分の全身にながれているのがわかる。
涼が出奔した。
その行く先は、
もしや………もしや………!)

有坂:
(呼吸困難さえ覚えながら。
俯き、目を伏せる。
軽く両手をひろげ、あの時、取り戻したはずの
涼の体の感覚を思い出そうとするけれど、
うまく、できない。
………何故、これほどに胸が痛いのか。
けして、自分が手にしたいなどとは、考えたこともない花のはずなのに。
目の前から消えた。誰かに奪われたのかもしれぬと、
そう考えるだけで、本当に心臓も止まらぬばかりだ。
何故。何故、これほどに…………!

………老翁との目通りのため、部屋を移るよう、巫女が伝えに来る。
有坂、そっと、瞼をあげる)
は。<オモテ>、ご守護さまお目付役…………
………いや。「諸刃(もろは)」、有坂岳彦。
とく、…………参ります。
ニックネーム オートマタ・ファクトリー at 01:37|
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